Jeepers Creepers

眠れない夜を、語り明かせるシェアハウス

回想〜初夏 pm0:23

  昼時の電車で目の前に座っていた女は、手が荒れていた。20代半ばくらいかというおかっぱ頭の女だ。マスクをしているのでわからないが、前髪からは切れ長の目がのぞいている。あまり美人だとは思えない。はっきり言って美人ではない。女は紺の膝下くらいのスカートに白い半袖のTシャツを着ていた。黒いポーチから手鏡を出し、化粧を確認する。黄色のブラジャーがシャツから透けて見える。私はそれを凝視した。私は、全く美人でない、手の荒れた女の、透けたブラジャーを凝視していた。この女は何故こんなにも手が荒れているのだろうか。医療従事者でアルコールを使いすぎたのか。それとも飲食店の勤務で日々皿洗いをしているのだろうか。席が空いたので、私はその女の向かいに座り、荒れた手と、それから透けた黄色いブラジャーを睨みつけた。女が訝しげにこちらをみたので、視線を外して読書するフリをした。それでも、女のブラジャーを舐めるように見続けた。黄色い。きっとBカップくらいだ。あるいは小さめのCカップだろうか。パンツも黄色なのだろうか。きっとそうなのだろう。女は荒れた手で誰かにメッセージを打った。男はいるのだろうか。どんな体位でセックスするのだろうか。バックで犯されるのが好きに違いなかった。僕の目の前で女はどす黒い何かに後ろから責められている。壁に手をつき、茶色の乳首をつけた小ぶりな乳房を揺らして、クリオネが踊るみたいに腰を振る。黒い何かが女の乳房に纏わり付く。女は眉間にしわを寄せ、低い声で喘ぎながら、だめ、だめ、と繰り返した。突然、女が手を振った。それを見た僕は、心臓が飛び上がり、激しく動揺した。ちょうど停車した駅から少し美人な友人らしき人物が女に声をかけた。2人分座れるだけのスペースを見つけ、俺の隣に移動した。隣に座った女は、やはり手が荒れていた。透けたブラジャーは黄色だった。少し柑橘系の香水が匂った。二人は次の駅で降りていった。途端に暑さと湿気が身体中にへばりついた。月曜日は体が重い。きっと手の荒れた女は今頃俺の悪口を言っているのだろう。そう思うと、仕事に行くのが憂鬱になった。