どうも、ごとーです。
「月とキャベツ」「花戦さ」公開中の「影踏み」などの監督、篠原哲雄監督について
時事的に影踏みの感想なんぞを書くのが筋なんですが、自分が関わってしまった手前、大して面白いことかけなさそうなので、篠原さんについてはなします。
篠原哲雄っちゅう男がいて
去年関わらせてもらった、映画「影踏み」が公開されている。
篠原哲雄監督は、専門学校で講師をされていて、その縁でとてもお世話になった。
現場では、決して威張らず、いろんな人の話をよく聞いて、自分の持つ感性と照らし合わせる。自分の考えにあぐらをかかず、いろんな選択肢を並べた上で、最適なものを選択して作品を作っていく。そんな印象だった。
現場での姿とは裏腹に、普段は意外にお茶目な人で、お酒が大好き。映画の話を聞きにいくと、ニコニコと嬉しそうに話してくれる、そんな人。
普段の篠さん
仕事の方では監督として、専門の方では講師、映画に関わる先人として。
ぼくがホームレスをやってた時期だったので、それを面白がって心配して話を聞いていただいたり、自分の作品にアドバイスをもらったり、進路相談を聞いていただいたりと、とても目をかけていただいた。
普段の篠原さんは酒飲みで、ニコニコしながら話をする。
機械関係がとても弱くて、ずっとガラケーを使っていた。だから、最近Twitterを始めたと聞いて、結構驚いた。
あるとき、半分化石みたいなパソコンを持ってきたことがあった。「ソフマック」で中古で買ってきたらしい。誰も突っ込まなかった。起動が遅いのが嫌だって言っていたので、セッティングを手伝った。余計なソフトが大量にインストールされていて、苦笑いした記憶がある。
(一緒に組まれることの多い松岡Pも機械系はすごく苦手な方で、この業界の偉い人はみんなそうなのか?と思った)
授業では、映画史のようなことを。
重要な映画、中でも映画を作っていく上で見ておくべき映画をセレクトして、それを篠原さんなりに解説していただく、という授業。
「〇〇っちゅう男がいて」というフレーズで話が始まり、演出の話や、その映画の狙い、よくできている部分の解説。中でも印象的なのは、小津安二郎のサイレント映画。
音のない世界で、あそこまで人間を生かして描くことができる小津はやはり天才だし、めちゃくちゃ頑張れば真似できないことではないってことを教わった。
また、付近の映画館でちょうど70年代の映画特集をやっていて、
「長谷川和彦の作品はみておけ」
とおすすめしてもらい、「青春の殺人者」「太陽を盗んだ男」を観に行った。
映画館で見た青春の殺人者のインパクトはいまだに焼き付いている。
映画から滲み出る圧力が凄まじすぎて、もう二度と見たくないと思った。
それくらい良い映画だった。
一緒に観にいった同期は翌日熱を出した。
太陽を盗んだ男は、一転、エンターテイメントに振っていて、これもこれで面白い。
当時としては不謹慎だなんだって言われてカルト扱いだったらしいけど。
沢田研二の人間力を絞り出したような芝居、演出。
無茶苦茶なゲリラ撮影。いずれも素晴らしかった。
上映が終わった後、映画館を出ると、篠原さんの姿が。
帰りの駅までの道中で、長谷川監督と会ったときの話をしてくれた。
長谷川和彦作品を映画館で見た直後に篠原哲雄のはなしをきく
多分これ以上贅沢なことはぼくの人生で起こらないんだろう。
そんなことを思った。
(そういえば松本零士のトークライブの後も同じことを思った)
篠原哲雄作品
篠原さんの作品も何本か見せてもらった。
有名な作品はそこら中で語られてるだろうし、「オー・ド・ヴィ」についてはなそうと思う。
というのも、ぼくはこの作品が大好きだ。
月とキャベツとか、張り込みとか、洗濯機は俺に任せろとか、面白い作品はいっぱいあるけど、その中で一番衝撃を受けた作品だ。
といっても、結構前に観た作品なので、ざっくりになってしまうのは申し訳ない。
函館のあるバーで出す蒸留酒(オー・ド・ヴィ)を飲んだ女性が翌日海岸で裸で死んでいる。そんな事件が起こる中、バーテンの主人公と周りの人間関係を描く。
そんな内容だ。
ストーリーは、全体で何が起こってるのか、終始よくわからない。
だけど、人間関係で揺れる登場人物の心情は追うことができる。
主人との愛人関係。女性とシェフとの関係。関係性の中で揺れる葛藤。
人と人の個々のドラマが上手くいけば、全体が難解でもついていけるというお手本だと思う。ぼくは脚本をカルトにしがちな勘違い野郎なので、大いに参考になる。
(そろそろわかりやすい作品をやろうと思う)
途中出てくる、篠原作品おなじみ(とぼくが思っているだけかもしれないが)の食事シーンも、安定の美しさ。篠さんの撮る飯はなんかエッチだから好きだ。
そして、人体を発火する勝負どころのアクション。松重さんの芝居も相まって、パンチの強いシーンだった。
強烈に記憶に焼き付いたのは、ラストの路面電車のシーン。
一人ポツンと謎に路面電車に乗る主人公。幻想的な風景。
このシーンは、路面に水をまいて撮影しているのだが、それが素晴らしい効果を生んでいると思った。湿った路面に反射する照明の美しさ。それ自体の画面的な強さ。
水の力ってのは凄まじい
どうしても語彙が少なくなってしまう。観て欲しい。
幻視のような、走馬灯のような路面電車のシーンから、現実に戻り、物語は一応の決着をつけて終わる。
正直、同期の評判はあまり良くなかった。やはり、「よくわかんない」っていう評価をしている人がほとんどだった。まあそれはそうだと思うけど。
でも、そんなこと気にならないくらい、演出や画面が美しいと思った。
何より、水というものをここまで意識して使った作品をぼくは他に知らない。
脚本自体もとても文学的で、銀河鉄道の夜を彷彿とさせるようなラストは、ぼくは観ていてエクスタシーを感じた。
確かにカルトな映画かもしれないし、ストーリーも難解かもしれない。
でもそんなのどうでも良くなるくらい面白い。
少なくともぼくはそう思った。
この作品のプロデューサーをしていた松岡Pに、興奮気味に感想を伝えたら、引かれたけど。
「あの作品が好きって言ってる奴10年ぶりに会った。3人目」
だそうだ。光栄である。
おわりに
なんだか、ただぼくが篠原さんを敬愛してやまないってだけの記事になってしまった。
ぼくにとってはそういう人だから仕方ない。
今回はここまでにしておこう。
余談ではあるが、「オー・ド・ヴィ」を観終わった後、篠原さんに
「ぼくはあのシーンが銀河鉄道の夜みたいだって思ったんですが、意識されてたんですか?」
って聞きにいったら
「なんかそうだったかもしれない」
ってにやってしながら言ってた。ずるい。
(了)