1.前書
彼らは、みんな鯨だ。
馬鹿らしいほど広い海の中を、
たった一人で呆然と泳ぐ哺乳類。
孤独を象った流線型の身体、
光をも吸収するくらい瞳、
ともかくもその美しいこと。
絶望を嚥下する青少年。
2.本文
群青。
深く深く、佇む。
空に目を伏せ、
ただ静かに呼吸を沈ませた。
その中、
誰にも知られずに泳ぐ、
白鯨。
たったひとり。
莫大な自由と同義の孤独を湛えて、
思考する。
そこは、
ひどく寂しい。
君にもらったラジオのノイズだけが、
時間を揺らす。
彼を造形した、
何万光年の記憶と知識。
水に融け出した哀しみを引きずって、
その存在は呑まれてゆく。
彼は何も言わずに、
目を細めた。
3.後書
僕のなかの心象風景に、
音はない。
あるのは、
誰かの影と強い潮風の気配。
手の届かない記憶にいつかの夢が混ざっている。