都会の人は、せかせかしていて嫌だ。
都会は人が冷たい。田舎はもっと人と人とが関わりあうんだ。
都会には自然がない。人工物が多すぎて閉塞的だ。
そんなようなことを言う人がいる。
僕はその都会で育った人間だ。
僕は精神的に滅入ってしまうことが多い。
暗く、暗く、考えてしまう。能天気に生きることが出来ない。
それは、都会にいるからだという。
田舎に行って自然に触れれば、そんなことはなくなるらしい。
僕はトーキョー生まれトーキョー育ちだ。
一時期アメリカの田舎に住んでいたが、それ以外はほぼトーキョーで過ごしている。
電車をストレスなく待てる時間は6分程度だ。
アスファルトに咲く花を見てもなんとも思わない。
深夜のコンビニのことを「希望」って呼んでいる。
そんなことを言うと、田舎の人は嫌な顔をする。
電車なんて三十分に一本あったらいい方だという。
ホームで待っている時間が気持ちいいらしい。
コンビニが近くにないのがいいらしい。
僕にはよくわからない。
なぜなら山手線は三分に一本くるし、
幼少期住んでいた家から徒歩2分圏内にコンビニがあったからだ。
そっちの方が便利じゃないか。
田舎から出てきた人たちは、東京を居心地が悪い場所だという。
それはそうだろう。
生まれ育った場所に不満がなければ、そこが一番居心地よく感じるのは自然だ。
トーキョー育ちの人でも、田舎に移り住みたいという人がいる。
そういう人もいるだろう。
生まれ育った環境で憂き目にあえば、故郷が嫌いになるだろう。
でも、僕は知っている。
田舎の人がさしてる東京が、新宿や渋谷のことだってことを。
トーキョーって言ったって、いろんな場所がある。
ひとくくりにして東京の人はこれだからって言われる。
ひとくくりにして否定をされる。
僕はそれが嫌だ。
故郷を全否定されるのが嫌だ。
僕はこの町が好きだ。
それも、ぺかぺかと光る繁華街でも、高くそびえるビル街でもない。
僕は、汚い居酒屋がたくさん並んで、おっさんが空に向かってキレてて、
植え込みで人が寝ていて、物理的にお持ちかえられてる奴がいる、
この赤羽っていう町が大好きだ。
赤羽の人たちは、意外とあったかい。
僕が精神的に滅入ってしまっているとき、みんなが口汚く励ましてくれた。
僕が困っているとき、解決手段を持っている人を紹介してくれた。
商店街のおばちゃんは、僕が声をかけるとおまけしてくれた。
赤羽の人たちは、よそ者に冷たい。
ドラマでちょっと流行った時、若者が来るような街じゃないって口々に言った。
バルってつくところはだいたいろくでもないってみんな言ってる。
そんなところより汚い焼き鳥屋のほうがうまいって。
僕は他人の意見に流されるような、その場主義的な態度が嫌いだ。
自分で考えて自分で行動できる人間が好きだし、自分もそうありたいと思う。
でも、そういう人間は、田舎では仲間外れにされる。
田舎で仲間外れにされたら、どうやら生きていけないらしい。
でも、都会にはそういうやつらだけが集まった集団があったりもする。
暗くなってしまっても、仲間外れにされても、みんなどこかに居場所を持っている。
それはクラブだったり、夜の繁華街だったり、ゲーセンだったり、
田舎にはない場所だ。
そういう多様性のある場所だったから、僕は自殺をしなかった。
僕は田舎で生きることは出来ないだろう。
僕の居場所は田舎にはないのだから。
だから、田舎がいいなんて思ったことは一度もないし、
田舎に住もうなんて思わない。
僕の故郷はトーキョーだ。
この町のことが大好きだ。
(了)